2026年7月16日

100点を目指すより、「60点」を続ける食事
診察室ではよく「塩分は控えめに」「甘いものは食べ過ぎないように」とお話ししますが、診察が終わったあとにいつも思うことがあります。「患者さんは、今日の夕食から具体的に何をすればいいのだろう」と。
「気を付けましょう」という言葉だけでは、日々の生活には結びつきません。生活習慣病の管理は、短距離走ではなく長距離のマラソンです。1か月だけ極端に頑張る食事より、少し肩の力を抜いて何年も続けられる食事の方が、体にはずっと良い影響があります。
たまにファストフードやラーメンを楽しむ日があっても大丈夫。大切なのは、100点満点の食事を3日続けることではなく、「60点の食事を細く長く続けること」です。今日から無理なく始められる、具体的な工夫をお話しします。
1.「食べる順番」を少し変えてみる(血糖値対策)
「ご飯を減らす」のは簡単ではありません。そこでおすすめしたいのが、食べる順番を意識する「ベジファースト・ミートファースト」です。
1.野菜や海藻、きのこ類(食物繊維)
2.肉や魚、大豆製品(たんぱく質)
3.ご飯やパン、麺類(炭水化物)
この順で食べると、糖の吸収が緩やかになり、血管を傷つける原因となる「食後の血糖値の急上昇」を抑えられることが多くの研究で示されています。
外食でも応用できます。例えばラーメンなら、トッピングのワカメ、メンマ、チャーシュー、煮卵などを先に食べ、そのあとに麺をすする。これだけでも体への負担は変わってきます。
2.コンビニやスーパーでは「一品足す」を合言葉に
忙しい毎日でコンビニやスーパーを利用するのはごく自然なことです。大切なのは、「何を一つ足すか」です。
カツ丼やチャーハンといった一品料理を選ぶなら、サラダ、お浸し、海藻、具だくさんのお味噌汁などを1品追加してみてください。これだけで、不足しがちな食物繊維やビタミン、ミネラルが補われます。
また、お弁当などの裏にある「栄養成分表示」を少しだけ見る習慣をつけてみましょう。以下の「1食分の目安」を頭の片隅に置いておくだけで、無意識の過剰摂取を防ぐブレーキになります。
※数値は一般的な成人(1日約2,000kcal換算)の目安です。
| 栄養素 | 1食あたりの目安 | 選び方のコツ |
| 食塩相当量 | 2.0g 以下 | 超えている場合は、スープを残すなどして調整する。 |
| 脂質 | 15〜20g 以下 | 揚げ物弁当などは一食で30gを超えることもあるため注意。 |
| 炭水化物 | 70〜80g 以下 | おにぎり約2個分。超える場合は次の食事で調整する。 |
3.「減塩」が難しいなら「カリウム」で排出を促す(血圧対策)
味気ない減塩食ばかりでは食の楽しみが損なわれます。どうしても塩気のある食事を楽しみたいときは、余分な塩分(ナトリウム)を尿と一緒に体外へ出してくれる「カリウム」を味方にしましょう。
おすすめ食材: バナナ、キウイ、トマト、アボカド、ほうれん草、海藻類
今日からできること: 麺類のスープを「半分残す」。これだけで、2〜4g程度の確実な減塩になります。
⚠️ 【専門医からの重要な注意】
慢性腎臓病(CKD)の方や、特定の降圧薬を服用中の方は、カリウムを摂り過ぎると高カリウム血症(重篤な不整脈の原因)を起こすリスクがあります。個別の制限については必ず主治医にご相談ください。
4.「油を減らす」より「油の種類」を変える(コレステロール対策)
脂質を一律に目の敵にする必要はありません。現代の動脈硬化ガイドライン等でも、「体に悪い油を減らし、体に良い油を増やす」という質的転換が推奨されています。
控えたい油(飽和脂肪酸): 肉類の脂身、バター、ラードなど
積極的に摂りたい油(不飽和脂肪酸): 青魚の脂(EPA・DHA)、オリーブオイル、ナッツ類
今日からできること: 週に2回、肉料理を「焼き魚」や「サバ缶」に置き換えてみる。
5.間食は「ゼロ」にせず、賢く付き合う
我慢ばかりの禁欲的なルールは長続きしません。おやつは、以下の2つのマイルールに沿ってコントロールすれば、生活の潤いとして十分に楽しめます。
① 1日200kcalまで: シュークリーム1個、または素焼きナッツ一掴み程度が目安です。
② 午後2〜4時の間に食べる: 脂肪を溜め込む働きをするタンパク質(BMAL1)の分泌量が、1日の中で最も低下する時間帯です。同じものを食べるなら、夜間よりこの時間帯の方が物理的に太りにくくなります。
6.「週1〜2回のご褒美」を長く続けるエネルギーに
私は、「好きなものを一生我慢してください」とは言いません。誕生日や旅行、家族との外食まで節制する必要はありません。
近年の大規模な疫学研究でも、ファストフードや揚げ物(超加工食品)を「週に3回以上」習慣的に食べる人は、生活習慣病のリスクが有意に高まることが示されています。
逆に言えば、平日の食事を少し整えて、「週末に1〜2回、家族とハンバーガーやラーメンを楽しむ」というペースであれば、体は十分に健常なバランスを保つことができます。
おわりに
毎日を完璧に律することは、私たち医療従事者であっても容易ではありません。
目指したいのは、「一歩進んで、半歩下がる」くらいの粘り強いペースです。少し食べ過ぎた日があっても、翌日からまた普段の食事に戻せば問題ありません。
「自分の生活パターンの場合、どこから手をつければいいだろう?」
そう思われたら、ぜひ次回の診察のときに、雑談を交えながら気軽にお聞かせください。あなたの暮らしを大切にしながら、無理なく続けられる方法を一緒に考えていきましょう。
